果てなき旅風
楽師旅団 ≪風読鳥≫ 2nd Live
The Bell Rings with The Wind
- 風を呼ぶ者たち -
~雪月の白狼編~
風を拒む慟哭の鐘 - Requiem for the Desert -
(ステフ過去編)
大型帆船が大海原を往く。
甲板に吹く潮風は、まだ南の大陸の乾いた熱を孕んでいた。まばらに雲が流れる青空を背に、一人の青年がじっと海面を見つめている。
漆黒の髪をした青年、名をステフ。彼が目指すのは港町ワーカイア。その先にはクゼールの街、そして霊峰カイザネイアへと続く道がある。
彼の目的はひとつ。各地に点在する大精霊を探し出し、旧帝国の遺跡から発掘された2つの遺物を精霊に試すこと。
なぜか。
精霊と風律師などという存在に、人間がいつまでも依存しないためだ。
ステフは木製の手すりに片肘をつき、目を細めて遠くを見据えた。ほどなくしてワーカイアの港が視界に入るはずだ、と船頭が言っていたが、今はまだ海しか見えない。
情報収集を兼ねて船員と雑談をすると、この近海にはオルヴァガンという怪物が出ると教えてくれた。
「一体何なんだ?そのオルヴァガンっていうヤツは?」
ロープを巻いていた船員は、顔を上げてステフを見やる。少し驚いたようだが、苦笑混じりに語り出す。
「太古から海に棲む化物ですよ。鋼の触手で船を引きちぎるなんて噂もありますが……ま、ほとんどは伝承ですね。ここ数十年は大きな被害もありませんし、俺も実物を見たことはないです。」
「噂ばかり、か…退屈しのぎにはいいかもな」
船員は微かに眉をひそめるが、笑みを返して頷く。
「退屈なのはわかりますけど、出会ったら笑いごとじゃ済みませんよ。もし船が沈むようなことがあれば……」
「ああ、わかってる」
そう言い残して、ステフは再び視線を海へ戻す。船員は肩をすくめ、作業へ戻った。
船員や他の乗客たちは「もうじき陸だ」と浮き立つように笑い合っていたが、ステフだけはどこか冷めたまま、心ここにあらずといった様子だった。
ふと、近くで幼い男の子が水を欲しがっている声が耳に入る。
「ねえ、お母さん、お水…もう少し飲んじゃダメかな…?」
その子どもは水瓶の底を覗き込みながら不安そうに唇を噛んでいた。暑さで喉が渇いているのだろう。
母親らしき女性は困った顔のまま、首を横に振る。「もう少し我慢して。港に着けば、水は手に入るから…」
ステフの胸の奥に、ひりつくような感覚が走る。“水をねだる子ども”それはかつての自分の姿でもあった。強烈な残像が、海風に揺れる瞼の裏で閃く。
遠い日の景色が甦る。
かつてステフは、まだあどけない少年として砂漠の村で暮らしていた。
そこは高く照りつける太陽の下、いくら掘っても湧き水すら見つかりにくい過酷な土地。少しばかりの水源を守るため、村の人々はささやかな努力を重ねていた。
そんな村に年に一度だけ訪れる風律師の存在は、ステフにとっては“奇跡”そのものだった。
風律師が奏でる音色は火風の精霊への祈りとなり、微かながら風と雲、そして小雨を呼び、干上がりそうなオアシスに僅かな潤いをもたらしてくれる。
ステフはその演奏に心奪われ、来訪の噂を聞くたびに母親の手を引いては、村はずれの道へ駆け出していった。
「お母さん、風律師さんはまだかな? 早く来てほしいな…! 今年はどんな曲を聴かせてくれるんだろう? またきっと雨が降るよね!すごいなぁ…僕もいつか大きくなったら、風律師さんみたいになって、村のみんなを助けられるようになりたい!」
毎晩、少年は寝床に入るたびに風律師への憧れを両親に話しながら、指折り数えて風律師の来訪を待つ。家族と村の人々も「また会えるよ」「今年も大丈夫だ」と繰り返し、信じて疑わなかった。
しかし、ある年を境に、風律師は姿を見せなくなる。
最初は「遅れているだけだろう」と誰もが楽観視していたが、気が付けばオアシスの水は枯れかけ、子どもたちの喉を潤す水さえ足りなくなっていた。
焦りと疑念が村人たちの間に広がり、次第に小競り合いが起きる。やがて歯止めのきかない暴力と混乱が、一斉に溢れ出した。
「どうして風律師は来ない!? 誰かが追い払ったのか…?」
「水を分けろ! うちにはもう飲む水すらないんだ!」
「そんな…お前らが隠し持っているんだろう!」
水を奪い合う争いの中、ステフの家も戦乱の火に巻き込まれ、家族は命を奪われていく。
混沌の嵐が過ぎ去る頃には、村は廃墟と化し、オアシスは村人の血で満たされていた。
辛うじて生き延びたのは小さなステフだけだった。
「どうして……風律師は来てくれなかったの……?僕たちを助けてくれるんじゃなかったの…?父さん…母さん…みんな…なんにも…ない……」
焼け焦げた家屋や散乱する遺体の傍らで、乾いた風が吹きすさぶ。乾いた風に砂が舞い、ひび割れた大地をひゅうひゅうと鳴く。誰の声も聞こえない。
少年ステフは茫然自失のまま、この世のものとは思えぬ喪失感と、風律師への深い恨みを心に宿す。あんなに無邪気に信じていた存在が、一瞬にして仇のように感じられたのだ。
こうして、砂漠の村は滅びた。
彼の胸に刻まれたのは、ただ一つの誓い。
『風律師などいなくても、誰もが自分で生き抜ける世界を作る』
しかしあのとき彼らに裏切られたという憎しみが、根を下ろし、いつしか精霊と風律師への復讐という極端な結論へと変貌を遂げることになるとも知らずに…。
ステフは甲板の床を見つめながら回想を続ける。その視線はまるで深い淵を覗き込むかのように暗い。
あの日、家も家族も失ったステフは砂漠をさまよった末、旧帝国の研究者集団に拾われた。彼らは古い文献や遺跡を調査し、精霊を制御する技術を追い求めていたという。
「精霊を操作できれば、風律師など不要というわけだ。……君の望む世界、共に築いてみないかね?」
ステフは、この申し出に飛びついた。
砂漠の村が壊滅した原因は、あくまで「風律師が来なかった」からだと信じていた彼にとって、精霊を自在に操る術さえあれば、同じ悲劇を繰り返さずに済むはず。
ステフが青年になるころ、彼らは二つの“旧帝国の遺産”を貸し与えた。
一つは、小さな釣鐘。用途不明だが、水に触れると仄かな光を放つという。
もう一つは、禍々しい鍵盤。これは実際に精霊に干渉し、支配する力があるという。
「鍵盤を奏でるとき、使用者や周囲の人間の負の感情が強いほど、精霊への干渉と支配力は増す。しかし、もし行き過ぎればやがて精霊が暴走し、やがて自壊し消滅する可能性もあるのだよ……。フフフ、使い方には十分気を付けてくれたまえよ?」研究者はさも嬉しそうに説明していた。
当初は「風律師に頼らず精霊を操作すれば、人々を救える」と信じていたステフだった。しかし実験を繰り返す中で、精霊が苦しむ姿や、周囲の者たちが恐怖で震える様を見るたびに、彼の胸の内に巣くう復讐心はどんどん肥大化していく。
「そもそも、精霊そのものがいなくなれば、人は風律師に翻弄されることもないのでは?」
そう考えたとき、ステフの中の憎悪は深く静かに燃え上がっていった。
その変化する様子を、旧帝国の研究者たちはほくそ笑みながら密かに観察していた。
その時突然、船員の怒声が甲板に響き、ステフの思考を現実へと引き戻す。見ると、波間から2対の目が黄色く光り、ぬらめく触手がのたうち回っているではないか。船底を揺らすほどの巨体の主は、太古より海に棲むという怪物“オルヴァガン”だった。
本来おとなしい性質で人を襲うことはないと聞かされていたが、なぜか今は船を攻撃している。鋼のような触手に、斧や銛はかすり傷すらもつかない。
「やばい…船が沈むぞ!」「うわああっ!」
絶叫と喚き声が入り混じる。触手がしなるたび、頑丈な甲板が軋み、人々は悲鳴をあげて逃げ惑う。
絶体絶命の状況に、誰もが絶望しかけた。そのときだった。
激しい海水のしぶきがステフの手元を濡らす。すると彼の懐にしまってあった小さな釣鐘が瞬くように光を帯びた。
「……コイツ…まさか…」
使い道がわからず放置気味だった遺産が、今このときだけは微かな波動を発している。
鋼の触手がステフめがけて振り下ろされる。
刹那、ステフは反射的に釣鐘を掲げ、そっと振り鳴らした。甲板の絶叫を切り裂くように、澄んだ音色が騒乱の空気を震わせる。
すると、先ほどまで無敵のように振るわれていた触手が、まるで音の刃に切り裂かれるように両断されたのだ。
「……な…何が起こったんだ…!?」
船員も、ステフ自身も息を呑む。
オルヴァガンは恐れたのか、悲鳴のような唸り声をあげると、瞬く間に海の深くへと姿を消していった。
奇襲を凌いだ船上には、安堵の息が漏れ、そして歓喜の声が上がる。
「すごい、あれは精霊の加護か?」「きっと…風律師の力に違いない!」
乗客乗員はこぞってステフを囲み、感謝と尊敬のまなざしを向ける。誰もが“あの鐘”を楽器と捉え、奇跡を起こした風律師だと勘違いしているのだ。
ステフはにこやかな微笑みを貼りつけ、会釈してみせる。だが胸の内に渦巻くものは、黒い冷笑に近かった。
(風律師だと? 冗談じゃない。俺は決してあいつらなんかじゃない。こいつらは何も知らずに、勝手に奇跡と呼んでいるだけだ…)
砂の村を焼きつけた記憶が閃き、ステフは奥歯を噛みしめる。あの悲劇は、風律師が来なかったせいで始まったのだ。
(奇跡とは他人から授かるものではなく自分の努力で掴み取るもの。風律師頼みの人間は自分で何もしようとしない…やはり風律師など不要な存在…!!!)
船はやがてワーカイアの港へと到着し、甲板にいた人々は陸地を踏みしめて安堵に微笑む。ステフも船を降りるが、その足は軽やかというより、何かに急かされるように速い。
次に向かうのはクゼールの街。そして霊峰カイザネイア。雷の大精霊がいると噂される、遺物の性能を試す絶好の場だ。
ステフは懐の釣鐘と鍵盤にそっと手を触れる。
(釣鐘の使い方は分かった。雷の大精霊をおびき寄せるのに使えそうだ…そうだな…火のアグニ商会あたりに売り込もう…)
遠ざかる海のざわめきに背を向け、ステフはクゼールの街への石畳を踏みしめて進む。
その瞳に宿るのは、かつての砂漠の少年の純粋さとはまるで別物。深い恨みと歪んだ決意の色。彼を利用する旧帝国の研究者たちにとって、この姿こそ望むところなのだろう。
そしてステフもまた、彼らの遺産を使いこなし、いずれは世界中の精霊を消し去るほどの力を得てみせる。そう信じて疑わなかった。
やがて近づいてくるクゼールの街が、彼の心の闇をさらに深く染め上げるのか、それとも__。
and more...
白狼は往古の月を視る- Moon Eater -
(ハティ過去編)
雪化粧された岩肌の切れ目から陽光が差し込む祠で、白狼は微睡んでいた。
白狼は、一振りすれば雪風が切り裂けるほど大きな尻尾をゆっくりと揺蕩わせながら、古く懐かしい夢を見ていた。
幾百の季節が巡るほどの古の記憶だ。
大陸の遥か北。冬風の厳しいストライ地方で、白狼がヒトたちから『大精霊』と畏敬を以て呼ばれるようになって、長い歳月が経っていた。
かつてストライ地方は季節の巡らぬ極寒の地であった。
しかし、大精霊と風律師たちの尽力により、今ではささやかながら緑が芽吹く大地となった。
今冬も半ばを迎えた。
祠に隣接するサルヴィ村の農民たちが耕した畑は、今年の秋も豊作に恵まれた。
サルヴィ村には大精霊の加護を受けんとする多くのヒトたちが集まり、営みを送っていた。
決して豊かな生活では無いが、彼らは静かで穏やかな冬を過ごしていた。
しかし、大精霊の庇護下と言えど、彼の力はストライ地方の全土を庇護できるわけでは無かった。
ストライ地方の端々では、冬が巡れば凍てつく寒さにより、未だ多くの飢え苦しむ者がいた。
白狼は、古く懐かしい夢を視ていた。
あの夢か。久方ぶりだ。
微睡の中、白狼は僅かな頭の痛みに眉を歪めた。
白狼にとって、最も思い出したくない記憶だった。
古い古い、太古の夢の中だった。
白狼は、人工的な灯りに照らされた灰色の無機質な部屋にいた。
床はヒヤリと冷たい。白狼の目の前には、灯りでぬらりとギラつく、透明で分厚い壁があった。
壁の向こうでは何やら数名のヒトたちがおびただしい数の機械に囲まれながら、小難しい話をしていた。
身体が重い…。白狼はふと後ろを振り向いた。
幾年もここに閉じ込められた狼には、見飽きた光景だった。
壁に空いた窓の外には、絶対零度の漆黒の空間が広がっていた。
漆黒の世界には、何千億の星々が悲しげに瞬いていた。
窓の外の眼下には、広き荒野と僅かな緑を携えた、懐かしき故郷の大地が横たわっていた。
白狼は身体の痛みに耐えながら、ヒトたちの方へ弱々しく首を向けた。
壁の向こうには博士と呼ばれる初老の男がいた。
疲労の溜まった声を振り絞り、その隣に立つ男に強く諫言していた。
「この精霊合成体の、これ以上の出力上昇は危険です。ノスタラジナ全土の環境改変を成し得るほどの臨界出力など…無理があるのです。暴走の可能性もある。聞いてください。おかしいのです。合成を幾度と重ねた精霊体には、感情にも似た特有の虚周波が」
高官と呼ばれ周囲に畏怖されている男は、博士の言葉を高圧的な態度で遮った。
「やれ。これは我らが母なる大地の危機を救うだけではない。祖国を敵国から守るためでもあるのだ。何のために我々が果て逝く大地を離れ、このような寒々しい月の上で実験をしていると思っている。失敗は許さぬ。これは厳命だ。」
なんという…あまつさえ精霊の力をヒトに向けるなど…!
…喉元まで出かけた博士の言葉は、同胞をも滅ぼさんとする彼の言葉と鋭い眼光に押し潰された。
観念した博士は首を項垂れ、脂汗を滲ませた。
博士と呼ばれた男は、『被検体:HTY』と刻まれた目の前の操作盤を震える手で操作し、数十度目の実験を開始した。
白狼が閉じ込められている部屋の壁に埋め込まれた筒状の装置『虚周波励振器』から、鈍い音が鳴り響いた。
途端、白狼の身体中に耐え難い激痛が走った。
食い縛る白狼の口元から、凍てつく冷気がとめどなく漏れ出した。
白狼の閉じ込められた部屋が、一気に氷点下まで凍り付いた。
痛い、痛い
白狼が、今までに感じたことのない激痛であった。
痛い、痛い。もうやめてくれ。
我々が何をしたというのだ。
我らの大地と風を犯し続けたのは誰だ。
其方たちヒトではないか。
憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い
許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ
その時だった。
白狼の美しい毛並みが曇天色へと変わり、眼が朱色へと変貌した。
狼の姿は、禍々しい渦のような形へと変化し、膨張と縮退を繰り返し始めた。
「虚周波の共鳴が止まりません!高次ハウリング発生!」
「隣接棟の『被検体:TOL』でも同様の現象が発生との急報!」
「いかん、実験中止!今すぐ律周波で中和しろ!」
「何をやっている!どうにかするんだ!」
白狼だけでは無かった。
施設に閉じ込められていた4体の精霊合成体たちの怨嗟が、共鳴を始めた。
ノスタラジナ旧暦1114年。
ノスタラジナの空に浮かぶ2つの月のうちの一つ『アルター』が半壊した。
数多の月の破片が大地に降り注いだ。
『被検体:HTY』は大地を穿つ月の欠片とともにストライ地方へと降り立ち、痩せ果てた大地を更なる憎しみと極寒で塗り替えた。
「・・・て。・・・・・起きて。ハティ、起きて。」
白狼は銀の眼をゆっくりと開けた。
「すごくうなされていたわ。大丈夫?」
ああ、ミラ、大丈夫だ。もう大丈夫だ。
珍しく昔の夢を視た。
白狼は少しだけ上擦った声色で静かに答えた。
ノスタラジナ新暦215年、風律師たちの命懸けの尽力により、ストライ地方のサルヴィ村付近は数百度目の穏やかな冬を迎えていた。
すまない、ミラ。やはり少し頭が痛いのだ。風律琴の音を聴かせてくれぬか。
「もちろん、良いわよ」
ミラは冬風になびく長い金髪が演奏の邪魔にならぬよう紐で結ったあと、静かに琴を奏で始めた。
ミラと呼ばれた風律師の娘が琴をたなびかせると。
白狼の頭痛はゆっくりと和らいでいった。
この地方で賢狼と呼ばれる彼の心は、再び落ち着きを取り戻した。
ありがとう、もう大丈夫だ。
「ふふ、なら良かったわ。あ、そうそう、あなたが寝ている間、雪原に咲いていた白スズで花冠を編んでみたの。白スズはたくましいわ。こんなに寒い雪の中でも、可愛らしい花をしっかりと咲かせる。」
ミラは花冠を白狼の頭の上に載せようとした。
その刹那、白狼に再び痛みが走った。しかしその痛みはすぐに引いた。
「大丈夫?この数日、少し変よ?」
ミラは白狼の変調を憂いていた。しかし白狼は気丈に振る舞った。
問題ない、そんなことよりも、この白スズは其方のような美しきものにこそ良く似合う。
ハティはミラが持つ花冠を咥え、ミラの頭に被せてやった。
「もう」
ミラは嬉しそうにはにかんだ。
白狼は大きな体を起こし、ゆっくりと、静かに息を吸い込んだ。
白狼の吐息に呼応し、冬風が優しく揺れ動いた。風には柔らかく暖かな温もりが与えられた。
白狼はストライ地方の精霊を管理する役目を担っていた。
風律師の村娘ミラは、白狼を支える任を与えられていた。
白狼は往古を想い出しながら、ミラとともに、ゆっくりと空の月を視上げた。
白狼はこの数日間、謎の鈍い頭痛を抱えていた。
優しく、穏やかに流れ吹く冬風の音。
風の音に、静かに、静かに混じる、鈍い虚周波に、この時まだ誰も気づきはしなかった。
Fin